− マインドロックアワードの審査の基準についてお話しください。
野澤: 僕の場合は、ワクワクするかどうかが基準です。ワクワクっていうのは、踊り出したくなる感じとはちょっと違うんだ。バラードでも同じで、心の中が動かされる、感情が揺さぶられる、その感覚が大事。要するに、「作品が心に響くかどうか」それが僕の審査の基準になります。
− マインドロックアワードに期待していることは?
野澤:音楽とは自己表現です。絵描きが絵を通じて自分を表現するように、このイベントに集まる皆さんも、音楽を通して自分を表現したいという共通の目的を持ってここに集まると思います。
自己表現が数十年前に比べて、流行や受け狙いが強くなっている気がするのは、SNSなどのメディアの影響だと思う。最近のテレビは嘘が多いと言われているけど、だからといって YouTubeやSNS が本当に真意を突いているわけでもなく、再生回数を稼ぐことが目的になっていることが多い。僕はそういう方向性は好まない。
重要なのは、たとえ少人数であっても心に響く人に反応すること。100 人の大馬鹿野郎が集まって多数決で決めたものが正解とは限らない。一人でも良いことを言っている人がいれ ば、その意見が真実を突いていることもある。
マインドロックアワードは、単なる流行や受け狙いのコンテストではなく、その人の生き様や考え方を問う場でありたい。たとえ今の自分が大したことがなくても、「将来はこんな 人間になりたい」というビジョンを持っている人たちに出会いたい。音楽で何を伝えたいのかを披露する場所であってほしいと思っています。
このイベントが他のロックフェスティバルやロックアワードと違うところは、単なる商業的な成功を目指すのではなく、真に意義のあるメッセージを発信する場であること。横須賀 の市⻑を中心に、このエネルギーの輪が世界に広がっていくことを願っています。
− 音楽プロデューサーとしての視点で、参加バンドの皆さんにアドバイスをお願いします。
野澤:20 年から 30 年音楽プロデューサーとしてやってきた経験から言えるのは、音楽を作る時には一過性の流行に流されないことが大事だということ。流行りは一時的なもので、 例えばトレーナーを裏返しに着るのが流行ったけど、それが 10 年後20 年後に何かの形で残っているかというと、あまり残ってない。だから、そういう一時的な流行に乗るのではなく、⻑く価値があるものを目指すべきだと思うよね。
震災の時に現地でライブをやる人もいるけど、被災者たちが本当に必要なのは物資だったりする。でも、音楽が心の支えになることもある。阪神淡路大震災や東日本大震災の時に当時、被災者の人たちの「一番元気をもらった曲」として僕が昔プロデュースさせてもらった曲が選ばれたことがあった。その曲は 「みんな手を合わせて助けに行くぞー!」みたいなセリフはひとつもない。毎日嫌なことがいっぱいあるけど、明日もまた来るから「がんばりましょう」という曲だったり、「笑顔抱きしめ 悲しみすべて 街の中から消してしまえ 晴れわたる空昇ってゆこうよ 世界中が 幸せになれ!」という歌だったりする。こうした曲は、人を元気にしようと思って作ったわけではなく、そんなことはなかなかできないことだと思うしね。日頃から人間の心の本質にあるものをどうやってわかりやすく伝えるかを考えて作っているから、それがたまたまそういう事態に人の心の支えになったんだと思うよね。つまり、日々精進して、自分の感性を豊かにし、作品を作り、それを発信することが大事。たとえその曲がヒットしなくたって、いつか誰かが困った時にふとしたきっかけで心を癒すことができる、音楽ってそういうもんだと思うんだよなぁ。
ヒットを狙うことや商業的な成功は悪くないけど、そこは目指すべき場所ではない。もし一発狙うのだったら、競馬やって、宝くじ買ったほうが、音楽でヒット作るより確率は高いかもしれない。せっかく音楽をやるなら、自分の心の中にあるものを人にぶつけることが重要。どういう音楽だったら自分らしく、また世の中の本当にスミッコでも役に立てるものを作るってどういうことなのかなって、真剣に考えてほしい。ど真ん中で役に立つものなんか簡単にはできないからね。
− スミッコでも役に立てるものって良いですね。
野澤:「一隅を照らす」という言葉があるけど、誰も注目しないような片隅の物事にきちんと取り組む人こそが尊いという意味なんだよ。
− 最後に、野澤さんが目指すマインドロックアワードとは?
野澤:商業的な祭りじゃなくて、新しい才能やメッセージを持った人たちが集まって、みんなで楽しい時間を過ごす場です。ここからスーパーロックスターが出るかもしれないし、 出なくても毎年集まった人たちが「最高だな、このイベント!」と思えるようなイベントを 目指しています。
− 野澤さん、ありがとうございました。
野澤:こちらこそ、ありがとうございました。皆さんの素晴らしい音楽に出会えるのを楽 しみにしています。